2005年9月20日
報道各社 様

「NHK新生プラン」に関する私たちの見解

NHK受信料支払い停止運動の会

  本日、NHKは、「新生プラン」を発表しました。報道によれば、そのなかでNHKは、広告収入や税金に頼らず、 視聴者が負担する受信料で支えられているからこそ、視聴率や特定の主義主張に偏らず、 自主自律の放送を行うことができると述べています。 しかし、その一方で、NHKは受信料不払い者や未契約者に対しては、民事手続きによる受信料の督促を行うことも辞さないとしています。
  その場合、仮に、裁判所をつうじて支払い督促状が送付されれば、不払い者は2週間以内に異議申し立てをしないと、 裁判で判決が確定したのと同じ効果が生じ、いつでも強制執行ができる状態になります。
  こうしたNHKの方針は、私たちの会が取り組んでいる「受信料支払い停止運動」の根幹に関わる問題です。 そこで、当会は呼びかけ人で協議をし、本日、以下のような見解を公表することにしました。
  なお、この見解をもとに別紙のような文書を本日、NHK橋本会長ほか全理事に送付するとともに、 NHK経営委員会の石原委員長ほか全委員にも送付しました。



1. 新聞報道によれば、NHK橋本会長は「不払いをいかに止めるかが、信頼回復につながる。 その方法として(法的措置を)導入することを考えている」(『読売新聞ニュース』 9月8日21時28分更新)と述べていますが、 これは受信料不払い問題の原因を直視しない議論です。
  下記は、NHKが本年8月に公表した受信料支払い拒否・保留の理由の推移です。

                      今年2月〜3月     今年5月〜7月
  不祥事・経営陣への批判        35%           34%
  不公平感・制度批判など        19%           33%
  改革の様子見               27%           22%
  隠蔽体質・退職金・ETV問題など   19%           11%

  不払いの理由をこの資料のように分類することについては議論の余地がありますが、それを留保したうえでいえば、 「不公平感・制度批判など」は増加したとはいえ、33%であり、それ以外の広い意味での経営批判が45%を占めています。 また、「改革の様子見」という理由も単純な不公平感ではなく、NHKの経営姿勢や現在の制度に対する疑問 ・批判が背景にあると考えられます。このような資料からすれば、NHKが最近、強調する「お隣が払っていないから」という、 不払いが不払いを呼ぶ現象は全体の3分の1程度にすぎないことになります。
  となれば、「不払いをいかに止めるかが信頼回復につながる」のではなく、 「不信の原因を取り除く改革を実行することが不払いを止める力になる」というのが正解です。
  また、この他に、今年3月末時点で受信契約を結んでいない世帯・事業所は有料契約対象世帯 ・事業所の約20%、922万件に上るといわれています。NHKの財政基盤を議論するのであれば、こうした未契約世帯 ・事業所の問題も検討が必要です。
  以上のような立場から、私たちは、NHKに対して、「お隣が払っていないから払わない」 という不払いをことさらに強調して責任を視聴者に転嫁するのではなく、信頼失墜の原因を直視して、 それを解消するのにふさわしい取り組み(具体的には、番組の事前説明を通常の業務の範囲内とした見解を撤回し、 番組の事前説明を禁止する旨をNHK倫理・行動憲章に明記すること)を実行するよう、別添の文書で再度、申し入れました。

2. これまでNHKは、私たちの再三の質問に対して、「政治の介入によって番組を改編したことは、これまでもなかったし、 今後もありえない」という回答を繰り返してきました。しかし、こうした雑駁な回答では、 私たちが指摘したNHKの債務不履行は少しも反証できていません。1つの重要な論点を例に挙げて、 この点を論証しておきたいと思います。
  去る6月3日付けで、当会が橋本会長宛に提出した公開質問書に対して、7月29日付けでNHKから回答が送られてきました。 そのなかで、NHKは、「野島につきましては、・・・・・ 予算説明の際にこの番組についての話が出ることも予想されたため番組を見ておこうと思い、 放送総局長の許可を得て試写に同席したものです」と記しています。
  しかし、NHKは、VAWW-NET JapanがNHKを相手取って提起した裁判の第5回公判にむけて7月20日付けで 提出した準備書面の中で、放送日前日の試写の場で番組変更方針が野島国会担当局長 (当時)から永田チーフプロデューサーに伝えられこと、その場で野島氏が変更によって時間が足りないなら、 追加できる映像があれば追加し、それでも足りなければ秦教授のインタビューを追加するようにと指示をしたと記載があります。
  また、7月25日付け『朝日新聞』の検証記事は、安倍晋三氏と面会後、NHKに戻って試写に立会った野島氏が、 2001年1月26日時点の修正バージョンについて、「これでは全然だめだ」と発言したのをきっかけに見直しが始まったこと、その後、 野島氏は、慰安婦をビジネスだったことにできないかなどと番組改変について具体的な指示をしたこと、こうした指示は 「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の本に書かれた主張に沿った根本的な修正だったことを生々しく記しています。
  こうした資料から、番組制作と無関係な国会担当局長の野島氏が安倍氏と面会した後に番組制作の現場に立ち会い、 番組改変の核心に触れる指示を出すなど主導的な役割を果たしたことは明らかです。 これでは、野島氏が「試写に同席しただけ」というNHKの回答は虚偽説明も同然です。
  私たちの受信料支払い停止運動が、受信料の「不払い」ではなく、「停止」であるゆえんは、双務契約の相手方であるNHKが、 このように政治介入に迎合して、公共放送に求められる債務(自立した公正な放送の提供)を履行しなかったことを理由にした 「条件付不払い」だという点にあります。また、NHKが、政治介入の温床となる番組の事前説明を 「通常の業務」と言ってはばからない現状では、こうした債務不履行が今後も再発することが予見されることも、 支払い停止の理由に含まれています。
  NHKと視聴者の受信契約が双務契約である以上、一方の当事者が債務を履行しない場合、 他方の当事者が債務の履行を一時的に保留することは、民法第533条でも認められた視聴者の正当な抗弁権です。
  したがって、私たちは、NHKがこうした債務の双務性、 相互依存性を無視し、公共放送の担い手としての自らの債務不履行を棚に上げて、視聴者の債務不履行に対して、 一方的に法的手段を講じようとすることに強く抗議しました。そして、万一、NHKが当会をはじめとする多くの視聴者、 メディア専門家の異論に耳を傾けず、法的手段に訴える措置を強行した場合、当会は法的措置も含め、 NHKの暴挙に対抗する意思を持っていることを通告しました。

3. 最後に、そして、この機会に、私たちは、受信料の不払いを続けておられる視聴者の方々に、次のことを訴えます。
  先に挙げたNHKの資料を引くまでもなく、受信料不払いの理由は様々ですが、明確な理由を挙げず、 払わなくても済むのなら払いたくない、という不払いが少なくないことは確かなようです。
  しかし、このように明確な理由を示さない不払いが増加することがNHKの改革につながるとは思われません。 むしろ、出口のない不払いが増加することは、広告料にも国からの出資・補助等にも頼らず、 受信料で支えられるNHKの公共放送としての基盤を揺るがすマイナスの影響の方が大きいのではないでしょうか?  このまま不払いが増え続け、NHKが財政的に行き詰ることになれば、NHKは、 民営化あるいは政府に財源を頼る事実上の国営化に向かいかねません。
  デジタル時代を目前に控え、また、多くの受信料不払い世帯・事業所や未契約世帯 ・事業所がある現実を直視すれば、受信料制度や受信契約制度のあり方について検討が必要なことは間違いありません。 しかし、公共放送のあるべき姿を十分検討せず、財政的事情から、なし崩し的にNHKの経営形態の変更を論じることには反対です。
  NHK改革がそうした誤った方向に流されないためにも、私たちは、現在不払いを続けておられる方々が、条件を付けた不払い、 すなわち、支払い停止運動に合流してくださることを強く呼びかけます。なぜなら、今、私たち視聴者にとって必要なことは、 受信料をNHKの経営への「参加権」として活かし、 NHKが視聴者の知る権利に応える公共放送としての使命を果たすよう促すことであると考えるからです。
  NHKがこうした私たちの要望を受け入れ、自主自律の放送を単に言葉の上でではなく、目に見える具体的な形で実行することにより、 私たちが受信料の支払いを再開する環境が整うなら、視聴者にとってもNHKにとっても、それに勝る姿はないのではないでしょうか。 そのためにも、NHKが、政治家の介入に迎合して番組を改変した過去の事実を真摯に反省し、 将来に向けての教訓とすることが不可欠です。
  政治家の介入や特定のスポンサーの意向によってではなく、視聴者である私たち一人一人の意思でNHKが変わるよう努力することが、 今、なによりも大切だと思います。117万人と言われる受信料不払い ・保留者も含め、多くの視聴者がNHK改革を願う建設的な意思を持った市民として力を合わせて行動すれば、 政治に弱い体質のNHKを、政治から自立した、視聴者の知る権利に応えるNHKに変えることは可能だと、私たちは確信しています。
以上